魯迅、蒋介石の愛した日本
著者の譚璐美さんは、東京生まれの華僑で、慶応卒のノンフィクション作家である。
日中近代史に関わる数多くの著作をお持ちである。
日中近代史はまさに不幸の歴史であると思う。
清の時代から中華民国にわたる時代、日本人と中国人は、それぞれが尊敬しあっていたようだ。
もちろん、全部がそうではないし、一方的に見下していた人々もいただろう。また、軍部などは別だ。
しかし、少なくとも、心ある人々は双方ともに尊敬しあっていた、はずだ。
そういう話は昔からよく見る、読む、聞く。
当然、私は、聞く話ばかりだが、欧米列強の圧力さえなければ、もっと違った歴史があったはずだ。アヘン戦争にしろ、明治維新にしろ、欧米列強の強引な圧力、ジャーディン・マセソンのもうかればいい式の、死の商人的な商売。
そんな中で、食い物にされかけた中国人は立ち上がり、食い物にされることを免れた日本人は、欧米に対抗すべく、同等を目指した。結果、不幸な歴史ができてしまった。
そんな気がする。
でも、そのはざまもさまざまな事象に、もっともっと目を向けて、具体的にどうだったのか、何があったのか、皆、何を思い、何を考え、何をしたのか、知るべきだろう、今も、いや、いつまでも。
大雑把に総括することは、あまり褒めたことではないような気がする。そこには何もないからだ。
あまりよく知らないことばかりなので、偉そうなことは言えないが、知り続ける努力は続けよう。
われわれにとって、一番大事なのは、極東のこの近代史に対するまなざしであると思う。
ひと言で、侵略で済む話ではない。
<目次>
はじめに 日中の結び目を断ち切ったのは誰か?
第1章 芥川龍之介の見た中国――一九二一年の長旅
『鼻』の中国語訳者は魯迅/錚々たるインタビュー相手/魯迅の「大きな夢」
第2章 魯迅の日本留学――嘉納治五郎の日本語学校
憧れの日本へ!/漢民族の奴隷的国民性/自分で辮髪を切った!
第3章 軍人になりたい──蔣介石も日本へ!
日本行きの船に飛び乗って/義兄弟の契り/爆弾作り/一途に思えば願いはかなう
第4章 太宰治が描く仙台の魯迅──希望と挫折と 迷信でなく、近代医学を!/藤野先生との出会い/中国人を救うのは「文芸」
第5章 東京で夢を追う──蔣介石、魯迅の青春
松井石根との友情/日本に亡命した革命家、朱舜水
第6章 目指すは夏目漱石──魯迅の文学的実験
決死隊の一員に/漱石の家に住む/弟の結婚
第7章 長岡師団長の水杯──蔣介石の初陣
逃亡帰国者三名/上海総攻撃!/早くも仲間割れ
第8章 寺尾亨の中華民国新憲法──魯迅、革命に失望す
故郷で教師に/封建的体質は変わらない/日本人の作った中国憲法
第9章 義兄弟・陳其美の死──暗殺者・蔣介石
日本へ脱出/謎の組織「泰平組合」/再び群雄割拠の時代へ
第10章 『狂人日記』の誕生──魯迅、流行作家になる
三男の結婚/中国は「鉄の部屋」/七十八ものペンネーム
第11章 日中初の合弁事業──三上豊夷の男気
孫文を応援した男/秘蔵資料を発見/武器弾薬密輸事件
第12章 蔣介石の幼な妻──そして孫文の危機一髪
恋に落ちた蔣介石/孫文脱出を語る未公開テープ/最初の国共合作へ
第13章 周家の崩壊──周作人、信子との確執
待望の北京四合院暮らし/男女関係?/魯迅の駆け落ち
第14章 弾けた上海バブル──悲劇の幕開け五・三〇事件
戦後恐慌の衝撃/横光利一が見た上海
第15章 蔣介石の反共クーデター──魯迅の怒り
孫文の「大アジア主義」演説/千人殺しても、一人の共産党員も逃すな! /魯迅の蔣介石批判/蔣介石の再婚話
第16章 蔣介石、最後の日本訪問──頭山満の助言
「今夜は眠れそうもありません」/「謹んで日本国民に告ぐ」/蔣介石・田中義一会談
第17章 上海、内山書店交遊記──魯迅の幸せ
金子光晴、林芙美子、武者小路実篤……/魯迅の特別講義/ペンと剣の闘い
第18章 済南事件と国恥地図──日中決別のとき
最初の戦争/日本人の歴史感覚/朝鮮、琉球は中国領土?
第19章 上海事変──中国進攻は元寇の復讐だ!
「堕落した文人」の汚名/まじめな日本人、ふまじめな中国人/魯迅の書いた墓碑銘
第20章 蔣介石の近代国家――通貨統一と国語問題
ついに主席に/金を生む装置/近代化を阻むのは中国語
最終章 一九三六年──やがて日中戦争へ
毛沢東のタブー/最後の友人/そして、魯迅もいなくなり…… /毛沢東の知識人大粛清/日本へのメッセージ
あとがき/参考文献
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