『猫を棄てる』 村上春樹 著

村上春樹氏が、文藝春秋6月号に『猫を棄てる―父親について語るときに、僕の語ること』という文章を書いている。

中に、戦争中、父親が中国大陸で、所属部隊における捕虜の中国兵処刑の現場を見たことがあるという話を、子どもであった村上氏にしたという一節があるので、話題になっている。

それは、特に中国国内で、より話題になっているようだ。

村上氏は、作家らしく、これを自分の体験として、語っている。それ以上でも、それ以下でもない。ほかの書物にもそのような話は出ているので、これもそういった話の中の一つだろう、というようなニュアンスのことは書いているが、それ以上のことは分からないので、それを聞いた、という体験を書いているのだ。

これが、南京事件と結び付くようなかたちで話題になっているのではないか、と想像するのだが、僕は、これが父親が子どもに語った、ということにこそ、重みを感じる。

やはり、語り継ぐということは、非常に大事なことだと思う。ネットがあるので、昔よりもいろんなことを調べやすくなったし、情報量も多くなった。しかし、かえって一つ一つの情報の重みは薄れていき、情報が個にどういう影響を与えるのか、ということを考えたとき、影響度は小さくなっていってはいないか、とさえ、思うときがある。

今の子どもたちは、僕たちが子どものときよりもはるかに多くの情報に接することができるが、僕たちの頃と比べて、知識が増え、思考が深まっているかといえば、そうは思えない。

例えば、村上氏が父親から聞いた話一つが、どのぐらい村上氏個人にとって、重要か、影響を与えたかということを考えると、それは万の情報に勝る、というようなことである。

これは、僕がそう思うだけのことで、別にそれだけのことである。特に根拠があるわけでもないが、そう思うし、そういうことを考えることは重要なことでもあると思ったりするのだ。


<目次>

【総力特集】令和皇室に何を望むか  

新天皇皇后「知られざる履歴書」 友納尚子 

眞子さま百年の恋は新皇室の危機 保阪正康 

 雅子さまは悩める女性たちの象徴です 三浦瑠麗  

◎「令和」以外にもふたつ「総理談話」が準備されていた 

安倍官邸「新元号決定」までの全内幕 田﨑史郎 

令和とは「うるわしき大和」のことです 中西 進 

◎仕事を制限することは幸福を制限することだ 

「働き方改革」が日本をダメにする 丹羽宇一郎 

◎スクープ──日本が押さえた韓国と北朝鮮「極秘接触」 

トランプ×文在寅“2分間会談”の真相 麻生 幾  

文藝春秋にみる平成史<平和、IT、自然災害> 半藤一利 

リクシル前社長激白「私は創業家に屈しない」 瀬戸欣哉  

◎切れた神経が再生する“新薬”が保険適用へ 

脊髄損傷は治療できる<札幌医大「奇跡」の発見> 本望 修  

30代の150万人が「性交渉未経験」 上田ピーター 

「中高年ひきこもり」100万人の現実 斎藤 環 

【特別企画】最高の執筆者が予言する日本の新たな30年 

「令和」の未来年表 この国の新しいかたち 

 超高齢化日本の「令和二十四年問題」 河合雅司  

「日本人になりたい外国人」は受け入れよ E・トッド 

渋沢栄一「論語と算盤」が日本経済を救う 三村明夫 

 「南海トラフ」「首都直下」地震は必ず起こる 平田 直 

このままなら「科学技術立国」は崩壊する 梶田隆章 

令和の「言ってはいけない」不都合な真実 橘玲 

 “ほぼ日”流「仕事術」のススメ 糸井重里 

 人間が「鬼」にならぬ御代に 平岩弓枝 

タイガーは<マスターズ優勝>自分に向き合う天才だ 丸山茂樹 

「全米最優秀女子高生」を育てた日本人の母 ボーク重子  

教育の本質は「藩校」<修猷館、佐倉…>にあり おおたとしまさ  

【特別寄稿】自らのルーツを初めて綴った 猫を棄てる―― 父親について語るときに僕の語ること 村上春樹  




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